やぶれかぶれの理科教諭その3

みんなで天文博士・・・のつもり

 

理科授業でいつも消化不良を起こしそうな単元が、星座の観察と星の日周運動だ。星は夜しか出ない。せいぜい、おためごかしの星座投影機を使用して、しかも、高価な投影機は夢物語だから、必死に臨場感あふれる説明に心掛けるが、無理がある。

こうなったら、授業は夜やるしかない。時間の制約を考えなければ、一晩中に3つの季節の星座が、しかも日周運動も併せて見せられる。星座のオンパレードは冬だから、冬を中心に秋・冬・春が見られればいい。観察は寒すぎる真冬を避けて、秋の11月初頭がいい。同時に秋と春の星座をものすることができる。人工衛星の飛行が見える。感動を呼ぶ惑星をいくつか捉えられる。やるっきゃない。

当時、若造であった私は、十分にやれると自信があったが、理科主任はもちろん、校長が許さないだろうと、一時悩んだ。

理科主任は「う~ん」と、答えを留保した。ところが、何と校長は、「保護者との十分な共通理解を測り、賛同者のみ参加させて実施するように。その場合不参加者が出た場合は、その子に対して十分な保証をしておくように。もちろん実施する場合は、安全管理に十分気を配り準備をしておくこと」と許可された。さすがだ。

早速保護者にお知らせと生徒の参加希望書を作成して配布した。当時、学年は6クラスあったが、驚くことに各クラス2~数名の欠席者を除いて希望が出た。驚いた。予想では、半数あればいいかなと思っていたから、私が驚いた。みんなで学校に泊まれるという興味もあったろうことは間違いない。一斉にはできないから、1クラスごとに実施した。当然のごとく私は6回の泊まりを体験することになった。私一人ではできないので、クラス担任と理科担当教諭に協力を依頼したところ、皆さん喜んで(?)協力を承諾した。

早速、実施日は、金土又は土日の一晩とし、夕刻から朝方までの時程を作成した。観察・休憩(おやつタイム)・仮眠を程よく織り交ぜ、食事については、夕食を家で取ってから学校に集まり、朝早く家に戻って朝食をとることにした。先生方も同じだ。

いよいよ観察会実施。この日のために自費購入した30cm反射望遠鏡が威力を発揮するはずだ。

校舎の屋上は寒い。防寒着で着ぶくれした子供たちが集まる。

薄暗くなりかける午後5時ごろ、西の空にひときわ明るく輝く星を発見する。宵の明星だ! 望遠鏡でのぞくと教科書に乗せられている金星を自分のものにすることができた。「明けの明星は、朝見えるんですよね。明日の朝が楽しみ!」という子もいたので、翌夜明け前に探すことを提案した。その子にとっては一大発見をすることになった。理屈は教室理科授業でやればいい。自分の誕生星座をも期待してもらう。

午後8時頃南天高くぺガスがかかり、西の空にはわし座、白鳥座等々、秋に活躍する星座たちだ。ついでに、北斗七星、カシオペアアンドロメダとご対面だ。西の空に三日月に近い月が鋭い光を放っている。

真夜中の零時は、冬の星座のオンパレードになる。まるで招待者のように土星木星まで南天にかかる。鏡をのぞいた生徒の口から思わず悲鳴に似た歓声があったりして、私が焦る。しかし周りを畑と山林に囲まれた田舎の学校ならではの特権をありがたく頂戴している。足元から這い上がる冷気が容赦しない。二人で一つの毛布にくるまった子供たちもいる。それぞれの星座が1時間にどれだく動くかはすぐわかる。

そしてあくる日の午前4時頃になると東の空に、春を代表するしし座が上がり、スフィンクスを思わせる品のいい座り姿にはいつもながら安ど感を覚える。11月中旬に参加する子供たちは、おとめ座のスピカにも面会することができる。

火星を覗くと、夜の天体観察会が終了だ。

腹をすかせた子供たちが自宅に帰っていく。先生たちも帰っていく。感謝、感謝、感謝! とりわけご協力いただいたご家族の皆さんに感謝!